パフォーマンスチューニング基礎#
概要・前提知識#
課題の背景#
最終課題では,1000万件という大規模データ(CSV形式)を対象とした高性能検索システムの実装が求められます.具体的には:
geotag.csv
(約1.1GB):Flickr写真の位置情報データtag.csv
(約445MB):写真に付与されたタグデータ
この規模のデータを扱う際,何も工夫せずに実装すると検索結果の表示に数分かかることもあります.
三層クライアントサーバアーキテクチャ#
Webシステムは一般的に以下の三層構造で構成されます:
[フロントエンド層] ←→ [アプリケーション層] ←→ [データ層]
ブラウザ Webサーバ データベース
各層の役割:
フロントエンド層: ユーザインターフェース,検索フォーム,結果表示
アプリケーション層: ビジネスロジック,HTTPリクエスト処理
データ層: データ保存,検索処理,インデックス管理
ボトルネックとは#
ボトルネックとは,システム全体の性能を制限する最も遅い処理部分のことです.Webシステムでは以下の要素がボトルネックになりえます:
1. CPU処理能力#
データの並び替え処理
文字列検索・比較処理
暗号化・圧縮処理
2. メモリ(RAM)#
大量データの一時保存
インデックス構造の展開
プロセス・スレッドのメモリ使用量
3. ディスクI/O#
CSVファイルの読み込み
データベースへのアクセス
ログファイルの書き込み
4. ネットワーク#
HTTPリクエスト・レスポンス
データベース接続
静的ファイル配信
5. 同期・排他制御#
データベースロック
ファイルアクセス競合
スレッド間同期
ボトルネックの遷移#
システムを最適化していくと,ボトルネックは段階的に遷移します:
段階1: ディスクI/O制約 → メモリ展開で解決
段階2: CPU処理制約 → 並列処理で解決
段階3: メモリ制約 → データ構造最適化で解決
段階4: ネットワーク制約 → キャッシュ・圧縮で解決
このように,一つのボトルネックを解消すると,次のボトルネックが顕在化するため,継続的な分析と最適化が重要です.
パフォーマンス最適化の基本原則#
1. 測定ファーストアプローチ#
最適化前に必ず現状を測定し,改善効果を定量的に評価する
2. 80/20の法則#
全体の80%の性能問題は,20%のコードが原因となっている
3. 段階的最適化#
一度に複数の変更を行わず,一つずつ効果を検証する
4. トレードオフの理解#
性能 vs メモリ使用量
開発速度 vs 実行速度
可読性 vs 最適化
次のステップ#
基礎知識を理解したら,実際の分析手法と測定方法について学んでいきましょう.